「出雲街道を歩こう」総合トップ > 大山道トップ > 溝口→大山
溝口から大山へ
出雲街道で最も大山に近い宿場町は溝口宿です。その溝口から大山に向かう大山道が溝口道です。歴史的には鳥取県日野郡や岡山県北西部(現在の新見市周辺)、広島県北東部(現在の庄原市周辺)あたりの人々が利用してきた道筋でしょう。そして、溝口から大山までの距離も短いので、出雲街道歩きをする途中で大山に立ち寄るためにも最も利用しやすい大山道です。
●溝口宿
伯備線の伯耆溝口駅をスタートし、まずは出雲街道の宿場町を北へ進みます。参勤交代に利用された街道の宿場町だけあって、明らかに宿場町型の町並みを残しており、現在でも伯耆町の旧溝口町域の中心市街となっています。また、溝口に日本最古の鬼伝説があることにちなんで、旧溝口町は一時期鬼のまちづくりを進めており、伯耆溝口駅舎には鬼の像があり、駅前のバス停脇には鬼の電話ボックスがあるなど、街の中では鬼の姿が目立っています。

3101.鬼の電話ボックスがある溝口駅前

3102.伯耆溝口駅

3103.宿場町を北へ
●溝口の道標
黒坂警察署の溝口幹部派出所の手前の交差点からは道路の幅員が広くなり、また、昔からあると思われる家並みもちょうど途切れるので、ここが溝口宿が終わる地点だと気づきます。この交差点は出雲街道と大山道の分岐点でもあり、溝口幹部派出所の前にある溝口下バス停の脇には「右 大山道」と大書された道標が保存されています。

3104.右 大山道
その交差点を右折するとまもなく伯備線の踏切を渡りますが、その踏切の名はズバリ「大山踏切」です。そして、その踏切を渡ったところの交差点にも道標が残されていて、「左 大山 右 長山」と記されています。大山道の道筋は数あれど、溝口はその中でも代表的な玄関口の町であったのだと感じさせられます。

3105.大山踏切

3106.さらにもう一つ道標
溝口の市街を出ると、さほど険しいものではないとは言え、さっそく上り坂にかかっていきます。溝口道の役割を引き継いでいる現在の県道45号は、国道181号をオーバークロスして高架橋を主体にこの高低差をクリアし、大山正面橋と名付けられた長くて高い橋で大江川を渡ります。

3107.坂道を上って県道をくぐる

3108.大山正面橋をくぐる
●登山橋
県道45号の大山正面橋をくぐると、その先で旧道も大江川を渡りますが、昭和9年(1934年)に架けられたその橋は登山橋と名付けられています。今後、もっと眺めは良くなっていくとは言え、この橋も正面に大山が見える橋で、新旧どちらの橋とも素敵な名前と素敵な眺めを持っていて、大山に向かう気持ちを盛り上げてくれます。

3109.登山橋
大江川を渡った先から道は木々に囲まれるようになり、勾配も急になってきます。大江川の谷沿いにあるいくつかの集落への道が分岐する辺りでは、早くも険しい山道になったのかと思いますが、その後さらに上っていけば逆に視界が広がり始めます。大山山麓はだいたいどこでもそうですが、谷の平地が狭く、高原の平地が広いという地形的特徴を示しています。

3110.谷沿いの集落への道が分岐

3111.上るほど開けてくる
3112の写真の交差点で県道45号にぶつかると、県道を横断して写真左の方へ上っていく道に入ります。大山とは逆の西方向への道なので、無関係な道のように見えますが、これが大山道の道筋で、すぐに180°近くカーブして道は大山の方を向きます。またすぐに県道に合流すると、まもなく米子自動車道の溝口インターです。溝口の市街からは2.5kmほど離れていますが、その分だけ大山には近く、自動車で大山に行くための主要な玄関口の一つとなっています。道の駅的に利用できる「大山望」という施設もすぐ側にあります。

3112.県道を横断して左の道へ

3113.県道に合流

3114.大山望

3115.溝口インター
●溝口展望駐車場
米子自動車道をくぐれば左(北)側には溝口展望駐車場があります。鳥取県では景色が良い場所にこのような「展望駐車場」が数多く整備されており、車を停めて心置きなく景色を楽しめるようになっています。特に溝口展望駐車場は溝口インターの高速バス停が併設、鬼の形のトイレも設置、そして先述の大山望が近接していることも含め、古道歩きの旅でも拠点となりうる場所です。もちろん大山の眺めも見事で、広い平地の向こうに大山の全容がはっきりと見えます。西から見た大山は富士山のような姿をしており、「正面大山」と呼ばれます。横手道沿いにある鍵掛峠展望駐車場から見た大山の「南壁」とは同じ山とは思えないほど形が違っています。

3116.溝口展望駐車場
溝口インターから約1kmの間は整然とした田畑の中を県道45号が一直線に貫いています。古道は消失してしまったのでしょうが、広い歩道も整備されている中、正面大山の雄大な景色を眺められるので、気持ち良く歩ける道です。一直線の県道が右にカーブするのが金屋谷地区の集落の入口で、ここでは正面の旧道に進みます。なお、古道としての溝口道の本来の道筋は斜め左の道で、県道45号の北を進んでいくルートなのですが、この後かなり進んでから道が草木にひどく埋もれてしまっています。行けるところまで行ってから引き返すにしても、かなりの距離を後戻りしないといけなくなるので、ここからは南寄りのルートにアレンジしてご紹介いたします。

3117.一直線に大山を目指す県道

3118.正面の道へ進む
●金屋谷
金屋谷地区は大山山麓らしい雰囲気の集落で、緩やかな上り坂になっている旧道沿いには地蔵の座像が道を見守っていて、集落の東の出口近くまで進んでいけば金屋谷上バス停のところの交差点に道標もあり、下部が少し埋もれていますが、「左 大山 右 岩立」で間違いなさそうです。アレンジコースのため後で右の岩立地区を通るのですが、ここはひとまず道標に従って左の大山の方へ直進します。少し東には伯耆国山岳美術館もあり、その先でいったん県道45号に復帰します。

3119.地蔵が大山道を見守る

3120.金屋谷の道標

3121.伯耆国山岳美術館
県道45号と合流すると、次の交差点で県道52号と交差し、さらに200mほど進めば「左 丸山 右 大山」と記された自然石の道標が残されています。大山へ向かうにはもちろん県道45号を直進していくのが近いのですが、よく整備された県道を一直線に進んでいくだけになってしまうので、少し手前の交差点まで引き返して、先述したように南の岩立地区を経由していくことにします。

3122.県道52号と交差

3123.ここにも道標
●岩立
岩立の集落内に入っていけば、その中心となる交差点では右に常夜燈と地蔵、正面に観音堂があり、ここを左折して進路を東に戻します。金屋谷地区と同様に岩立地区も大山山麓らしい雰囲気の集落で、道の脇の水路にはきれいな水が音を立てて流れており、道の先には正面大山が美しく見えています。

3124.岩立の常夜燈と地蔵

3125.岩立観音堂
 
3126.家並みも水路も花も大山も美しい
岩立の集落を通り過ぎてもまだ広い田園風景は続き、集落だけでなく田園風景もまた大山山麓らしさが色濃く感じられます。そして道路の右側には昔の道と思われる土道が現れ、そこにはまた道標があり、「左 大山 右 大内」とあります。ここでは道標に従って現在の道の交差点を左折します。

3127.初冬の大山山麓

3128.古道と道標が残る
またすぐに3129の写真の交差点を右折し、県道45号の南の道を東へ進んでいきます。この道は「歴史の道調査報告書」に記録された溝口道の道筋ではありませんが、道沿いには地蔵も見られ、「大山道」としての役割を持っていた古道であることがわかります。地形はここまで来てもまだ広がりを見せており、よく整備された田園風景が続きます。

3129.またすぐに右折

3130.この道も地蔵が見守る古道

3131.広い田園地帯を緩やかに上る
岩立の集落からの道が県道45号にぶつかると、ここからしばらくは県道歩きです。車が飛ばしている割に歩道がありませんが、路肩が広いので歩くのに危険を感じることはありません。道の勾配はまだ緩やかなままですが、着実に標高は上がってきており、県道に合流してから約1kmで標高は500mに達します。

3132.ここから県道歩き

3133.標高500m
県道45号の北には細い小川が流れています。水面を見ることはほとんどなく、そのせせらぎを聞きながら歩いていきますが、標高500mを過ぎたあたりでその音が聞こえなくなる瞬間があります。川の表流水がなくなる場所であり、豊かな伏流水と湧水という大山山麓らしさを目ではなく、耳で感じることができます。車で大山に急ぐための幹線道路を歩いていますが、だからこそ車で走っていては気づけないことに注意を払ってみましょう。そして県道がカーブを繰り返すようになる頃には桝水高原に到達しており、周囲も高原らしい風景になってきます。
さて、金屋谷からルートをアレンジしてここまで来ましたが、北寄りを通っている本来の溝口道も気になるところで、3135の写真の地点では北の方へ行ける細道が接続しているので、少し寄道してみましょう。

3134.桝水高原の景色に

3135.左に入ってみましょう
●桝水高原の溝口道
3135の写真で分岐している道を150mほど北に進むと、あっと驚くような高原の風景が展開します。西を向けば米子市街に弓ヶ浜、中海、島根半島。北西には美保関が見え、空気の澄んだ晴れの日という条件付きではありますが、はるか彼方の隠岐島まで見えることもあります。もちろん東に正面大山の威容が見られるのは言うまでもありません。そして、この場所は古道としての溝口道が通っていた場所です。現在では西も東も道筋が全然わからないほどの藪になっている場所があるため、道として利用できなくなってしまっていますが、幸か不幸か、そのためにかつての溝口道の風景が最も景色の良い場所において完全保存されているという結果になっています。

3136.桝水高原の溝口道と大山

3137.美保関の向こうに隠岐もうっすら…!
県道45号に戻れば、600mほどで県道158号との交差点に至ります。県道45号はここで右折して大山環状道路となり、鍵掛峠や御机方面に続いていますが、大山に向かうのは直進の県道158号です。交差点付近は桝水高原の観光施設が集まっています。先述した溝口インター付近と同様に公衆トイレや駐車場、飲食店があり、溝口道ではその道のりのほぼ1/3を進むたびに休憩に適した場所があります。

3138.桝水高原は大山観光の重要交差点

3139.桝水高原フィールドステーション
●桝水高原
桝水高原は大山周辺でもメジャーな観光スポットの一つです。広いスキー場があるというだけでなく、最高の展望が楽しめるそのリフトは「天空リフト」と名付けられ、スキー場の営業期間以外も運行されています。そしてそのリフトで上った先は「恋人の聖地」となっていて、そこを通っているのはかつての姿をそのまま残し、一丁地蔵も並んでいる横手道です。そして、大山道という観点で見逃せないのは県道158号沿いの湧水の側にある桝水地蔵です。新旧の地蔵が並んでいますが、最も古い地蔵は美作国の行者によって建立されたものだそうで、大山道を介した地域の交流を感じさせます。桝水という地名の由来については、「真清水」が転じたから、桝で量ったように一定量の水が湧くからなど諸説ありますが、はるか昔からここは水が湧いている場所であり、後醍醐天皇が桝に水を入れて飲まれたという伝承もあります。

3140.桝水地蔵と湧水

3141.恋人の聖地へ向かう天空リフト
>拡大画像 桝水の案内板
桝水高原から先の県道158号はそれまでの県道45号と違って路肩が狭く、見通しの悪いカーブも多数あるため、交通安全には注意が必要で、桝水高原エリアと大山寺エリアを結ぶ観光道路だけに、自動車、自転車、歩行者それぞれの立場をお互いに配慮したいところです。桝水高原からも引き続き緩やかな上り坂が続いており、標高は800mに達します。基本的には森の中に道が通っていますが、ところどころ眺めが開ける場所があり、桝水高原から眺める絶景は少し角度を変えながら引き続き楽しめます。

3142.県道158号は歩道なし、路肩狭い

3143.県道284号と合流

3144.眺めが開ける場所も

3145.標高は800m
●桝水別れの道標
県道158号を進み続けると、右後方から未舗装の道が合流してきて、そこで振り向けば桝水分かれの道標があります。ここは横手道との合流地点です。当サイトではこのまま県道歩きを続けますが、横手道を少し戻れば遊歩道を使って三輪平太の碑まで進むこともできます。そちらは森の中を進む山道なので、自然散策を楽しみたい方はそちらを選ぶのも良いかもしれません。

3146.桝水別れの道標
>拡大画像 横手道の案内板(道標等の案内・横手道を少し戻った地点に設置)
あえて県道158号を選択している理由は古道としての大山道の道筋は県道の方だからで、大山道を象徴する一丁地蔵は県道の方に続いています。既に一丁地蔵に刻まれている番号はかなり若い数字になっていますが、等距離に地蔵が設けられ、現在で言うキロポストの役割を果たしていることは十分に感じ取れます。そして三輪平太の墓のところで横手道の遊歩道と合流します。

3147.横手道の一丁地蔵

3148.県道沿いに一丁地蔵が続く

3149.三輪平太の墓
>拡大画像 三輪平太の墓の案内板
●石の大鳥居
横手道の一丁地蔵が終わるのが石の大鳥居で、そこには県道の側に昔の道が残されています。いよいよ大山に近づいてきたことを実感できる場所ですが、もう一つ注目したいのが鳥居の側にたくさんの地蔵が並んでいることです。大山はかつて神様と仏様が共存する「神仏習合」の場所であり、幅広い人々の信仰を集めていたことがよくわかります。日本遺産である「日本最大の牛馬市」の前に付く「地蔵信仰が育んだ」という言葉にも納得です。

3150.石の大鳥居

3151.地蔵などの石造物が並ぶ

3152.まさに地蔵信仰の地
>拡大画像 横手道の案内板(大鳥居等の案内)
大鳥居を過ぎると、3153の写真の地点からは県道158号に歩道があります。今ではクマザサに埋もれてしまっていて、かつて何かがあった場所には見えませんが、「西明豆腐屋跡」という看板も立っています。

3153.ここからは歩道あり

3154.西明豆腐屋跡
大山夏山登山口の前を通過し、緩やかな下り坂でS字カーブを進んでいくと、大山寺橋を渡ります。天気が良ければ右(南東)に大山と烏ヶ山が見え、左(北西)を見ても大山周辺では定番の日本海方面への眺望があります。

3155.大山夏山登山口

3156.大山寺橋から見る大山と烏ヶ山
大山寺橋を渡れば大山寺の門前町に入ります。100mほど直進すると丁字路に突き当たり、右に登れば大山寺や大神山神社奥宮、左に下れば大山自然歴史館や大山寺バス停、そして博労座駐車場です。

3157.門前町に到着

3158.上っていけば大山寺

3159.下っていけば博労座
大山山内(大山寺、大神山神社奥宮方面)への続きは横手道の「御机から大山へ」のページをご覧ください。
  • ●地名、人名等の読み方
    •  溝口=みぞくち
    •  新見=にいみ
    •  庄原=しょうばら
    •  伯備線=はくびせん
    •  伯耆溝口駅=ほうきみぞぐちえき
    •  鍵掛峠=かぎかけとうげ
    •  金屋谷=かなやだに
    •  岩立=いわたて
    •  桝水高原=ますみずこうげん
    •  美作=みまさか
    •  後醍醐天皇=ごだいごてんのう
    •  烏ヶ山=からすがせん
    •  大神山神社奥宮=おおがみやまじんじゃおくみや
    •  博労座=ばくろうざ
          
  • ●関連ページ       
  • ●参考資料
          
  • ●取材日
    •  2019.11.10/12.10
    •  2021.11.5
▲ページトップ
inserted by FC2 system