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9.松江杵築往還 〜宍道湖北岸を行く参詣の道〜
当サイトの「出雲街道の道のり」コーナーでは松江から出雲大社の間、宍道湖南岸の山陰道を選択しています。しかし、山陰道で宍道や今市を経由するよりも、宍道湖の北岸を通る方が距離は近いです。歴史的にも松江から出雲大社に向かうには「松江杵築往還」と呼ばれる宍道湖北岸の道を利用する方が一般的だったようです。

松江の起点は上方往来(出雲街道)と同じ松江城三ノ丸で、京橋を渡るまでの道筋は同様です。そこから松江大橋を渡って山陰道へ向けて南下する上方往来に対して、松江杵築往還は西へ進みます。途中、城下町を出るまでの間にも『大社一畑道』と大書された道標があったそうで、現在、その道標は一畑電車の松江しんじ湖温泉駅の東、松江市役所の第4別館の駐車場の片隅に移設されて保存されています。

ここから浜佐田地区までは北の丘陵沿いを行き、そこからは一畑電車北松江線の線路、国道431号、そして宍道湖に沿った道のりとなります。古道としての見どころは、宍道湖と日本海を結ぶ佐陀川に架かる茶屋前橋が今なお現役の木造の橋であること、西長江町にやはり『左 大社 右 一畑』と刻まれた道標があることが挙げられます。

松江市内では山陰道と比較してまとまった市街を形成しているところが少なく、古道らしい史跡の登場頻度も低いので、古道を歩いているという実感はやや乏しいかもしれません。それでもいかにもローカル鉄道らしい一畑電車の線路と一緒に宍道湖岸を延々と辿る道は、ここにしかない風景と言うことができ、晴れていれば宍道湖の向こうには大山も見えます。

松江市を出て出雲市(旧平田市)に入れば、小境町地区は一畑薬師の玄関口となっています。一畑電車の一畑口駅は平坦地にも関わらず「スイッチバック」の形になっていますが、一畑電車がその社名の通り、松江と出雲の双方から一畑薬師を目指して線路を敷設した名残です。(一畑口駅〜一畑駅は昭和19年(1944年)に廃止)

宍道湖が終わる頃からは国道431号や一畑電車から少し北に離れていき、北から平田市街へ入っていきます。平田は今でこそ出雲市の一部ですが、平成の大合併前からの市だけに、もちろん松江杵築往還の道中では最大の町です。
出雲平野では綿花栽培が盛んで、出雲国では山間部の鉄に並ぶ特産品でしたが、平田の町は木綿の集散地として繁栄したため、現在もよく残っている古い街並みが「木綿街道」と名付けられ、観光まちづくりも力強く進められています。現在では木綿による繁栄は途絶えてしまいましたが、同じく名物である醤油や生姜糖の老舗は木綿街道内に今も昔からの店を構えているため、美味しいお土産にも事欠きません。

平田市街を過ぎれば、旧街道は斐伊川沿いを西南西に進んでいきます。川の改修や圃場整備の結果として旧街道らしさは薄くなっていますが、出雲路自転車道となっている斐伊川の高い堤防からの眺めが良いので、単調ながらも飽きることがありません。近くには出雲平野らしい散居集落や築地松、そして天気が良ければ遠くに大山と三瓶山という山陰の二大名山を見られるため、国引き神話のイメージを現実に見ることができます。

平田から5kmほどは斐伊川に沿って進み、一畑電車の武志駅の近くで斐伊川と別れ、出雲平野のラストコースを辿ります。松江市内における宍道湖沿いのような景色の美しさはありませんが、この辺りからの道の方が逆に旧街道らしい雰囲気を残していて、「旧杵築往還」と記された標柱も整備されています。
見どころとなるのは赤い鳥居が並んで一畑電車の撮影名所として知られる稲生神社、『左 平田 右 今市』と刻まれて古道の重要交差点であったことがわかる鑓ヶ崎の道標などがあります。その道標からは出雲大社の昔からの参詣道である馬場通りを経て、勢溜の大鳥居の前に到着します。

ここでのご紹介は出雲大社までにとどめますが、道はさらに日御碕神社の方へ続いていて、出雲大社とあわせて日御碕神社にも参拝する当時の旅人たちにとって重要な参詣の道だったと言えます。

余談となりますが、この松江杵築往還に並行する一畑電車では自転車持ち込みの料金さえ払えば、普通の自転車でもそのまま電車内に持ち込めるというサービスを実施しています。(JRなど一般的な鉄道では折りたたみできる自転車を折りたたんで専用の袋に収納しないといけない)
距離感も1日のサイクリングにちょうど良く、自転車の機動力を活かせば一畑薬師や日御碕神社にも立ち寄りやすいという意味で、自転車で巡るのに最適な古道であると言えます。

松江の大社一畑道道標

木造の茶屋前橋

西長江の大社一畑道標

ローカル私鉄らしい一畑電車の線路に沿う

高ノ宮駅付近の旧道

宍道湖の向こうに大山

平田木綿街道

宿泊施設などの整備も進む

生姜糖の老舗

平田船川

はるか遠くに三瓶山を望む斐伊川堤防

散居村や築地松を見渡せる

出雲平野を西進

稲生稲荷神社

旧杵築往還の標柱が整備されている

鑓ヶ崎の道標

神光寺橋から馬場通りへ
令和2年(2020年)5月3日、5月10日、5月16日 Facebookページに掲載
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